民主政治を人体でいう「血液」と表現した、英国保守主義思想界No.2のサミュエル・テイラー・コールリッジ(2)
唯物論をモーゼの『創世記』を持ち出して、「亡霊」と批判したり、マルクス主義を、「とてつもない実際的な詭弁」とし、英国の指導者たちを占有してしまっているのに嫌悪感を覚えるなどプラスの面もある反面、似通った思想をもつ哲学者、同業者をやたらけなすという人格上の欠陥がありました。
エドマンド・バークに対しては、
バークの「崇高で美しいもの」に関する論文を私は貧弱であると思います。そして、彼が趣味について述べていることは深遠でもなければ、正確でもありません
バーク氏は実に偉大な人物でした。彼が読んだと思われる程までに歴史を哲学的に読んだ人は今まで一人もいません。しかし、彼が自らの一般原理をさもしい利害関係、財産恐慌とか、ジャコバン主義などと結びつけて考えることができないうちは彼は単なる食事を知らせるベルにすぎなかったのです。こういうわけで、みなさんはバーク氏の演説と著書になまはんかな真理があることにきづくでしょう。それでも彼の卓越した偉大さを心から認めましょう
(備考)バークがdinner bellと呼ばれた理由は彼の演説が長引くと他の下院議員たちが食事を取りに行ったからである。このニックネームは彼が頭を波状に動かす癖があったことに由来している
カニングは非常に怒りっぽい、即ち、いつもひどい仕打ちをくわえる才人である割には驚くほど怒りっぽかったのです。彼は国会に出る前にロバの皮を被るべきでした。……彼は指導的精神のある人ではありません。彼は風雪に乗じることができないのです
カニングは美しく、優れたものを見極める知的な感覚を備えていました。―即ち、彼は人をののしったり、けなしたり、人の面目を失わせる慈愛を除いて滅多に話しません
こういった人格上の欠陥にさらに追い打ちをかけるのが「新プラトニスト」と呼ばれるほど、「全体主義の祖」プラトンを称賛していたことです。ルソーやマルクスを批判しながらその源流のプラトンを危険視しなかったという矛盾がコールリッジの特徴なのかもしれません。
プラトンの著作は精神を鍛えるための練習問題のようなものです。彼の著作品を読めばみなさんは様々な命題が概念を内包しているにもかかわらず真実であることがお分かりになるでしょう。……私はプラトンの著作の大半を深く注意を払って数回読みましたが彼の全作品を読んだわけではありません。私はプラトンの著作品を前もってよんだことがあります。彼は最高の天才でした
(『法律』で)プラトンは個人に対して敵意をむき出し個人の自由を憎悪する哲人であったので、個人の存在しない体制を構想した。すべての国民がすべてを共有し完全に同一の思考や感情を持ち同一の生活をする国家を法律で作る(強制する)ことを夢想したのである(二四五項)
コールリッジはどうもネット上に散見されるPDFなどを見ると、ジャコバイト時代に財産の共有を強く志向していたことがあるようで、もしそれがプラトンによって毒されたものだとするならば、終生頭から離れなかったのかもしれません。