春恋ねむ。の不定期ショコラβ(仮)

書庫をもじったものです。ステーキショコラにしようか迷いましたが、特に深い意味はありません。幽霊みたいな人が気まぐれで色々考えるブログ的なものがコンセプト。しばらくは暫定として、不定期ショコラSNS.β(仮)という記事に短文形式で書き込んでいく、アップデートしていく的な感じでやっていく予定でござるん。

「異才発掘プロジェクト」と松村暢隆『アメリカの才能教育』の抜粋

(注)2014年8月時点の記事です。

来たれ、未来のエジソン=異才の不登校児、発掘へ―東大先端研などサポート

 突出した才能を持ちながら、学校生活になじめず不登校になっている子どもを選抜し、日本をリードする人材に育てる「異才発掘プロジェクト」に東京大先端科学技術研究センターと日本財団が乗り出す。目標は、小学校を中退した後、母親が寄り添って勉学を支え、才能を開花させた発明王エジソンの再来という。
 飛び抜けた才能の持ち主は、コミュニケーションが苦手だったり、興味が偏ったりして授業に興味を失い、不登校になるケースがある。こうした子どもの探求心に応え、長所を伸ばすのがプロジェクトの狙いだ。
 小学3年~中学3年を対象に公募し、書類選考と面接で10人程度を選ぶ。先端研に活動スペースを設け、専門家が特別授業を開くほか、オンラインで質問に答えるなど個別指導を行う。選抜に漏れた子どものうち100人には、教材などを提供する。日本財団が、運営資金として5年間で5億円を積み立てる。
 計画が4月に発表されると、保護者からの問い合わせが500件を超えるなど反響が大きかったため、募集開始を5月から9月に延期。5都市で説明会も行うことにしたが、東京都内の会場はすぐ予約で埋まり、8月末の追加開催が決まった。
 プロジェクト責任者の中邑賢龍同センター教授は「勉強ができすぎて先生の話をつまらないと感じ、不登校になる子どもの存在が忘れ去られてきた」と指摘。日本財団の担当者、沢渡一登氏は「先生を質問攻めにして授業を中断させるような子どもが行き場を失っている。ユニークな才能をつぶしかねず、受け皿が必要だと思った」と話す。
 今後の説明会は、9日札幌市、23日福岡市、29日東京都目黒区で。いずれも先着順

簡単に眺めてみて、へぇ、なかなか面白そうな企画じゃん!と思ったので、関連する団体について調査。こういうプロジェクトは資金捻出をしてくれる財団のバックアップなんかが必要不可欠で、わたしが多少は実情を知っているアメリカもそうです。今回のケースだと、「日本財団」というところ。


wikiの記述になりますが、公益財団法人という何やらパッと見よく分からんいかにもありがちな分類ですが、どうも現在では民間色の強い財団のようで、ホッと一安心です(笑)

「財団法人ではあるが、モーターボート競走法(昭和26年法律第242号)第22条の2の規定によって設置された関係上、特殊法人の性格をも併せ持っていたが、2007年の競走法の改正により、完全な民間の財団法人になる」

「2011年4月1日に、公益財団法人になると共に正式名も「日本財団」になった。これにより、国土交通省は所管官庁ではなくなった(ただし、モーターボート競走法上の監督は引き続き受ける)」

これらを勘案すると、せいぜい国交省が若干関係があるだけで、文科省はノータッチ(まぁ、国交省は別の分野でけしからんのだが、ここでは割愛。見逃すわ)。日本の社会主義的な官僚というか行政が手を出すものはたいていダメになることがめちゃくちゃ多いので、民間主導というのは結構期待できます。

そして、肝心の「異才発掘プロジェクト」ですが、公式サイトがある模様。


これはギフテッドあるいはタレンテッドについて多少は知っている方なら誰でも疑問に思うでしょうし、記事を見たときも「?」となったんですが、どうもそういった名称は採用していないみたいですね。それらについて認識してるだろうことは、「異才発掘プロジェクト」の英名の略称、ROCKETの、

Room Of Children with Kokorozashi and Extraordinary Talents

から把握はできるんですがね。
「Talent」やその複数形は、アメリカのギフテッド教育がらみのはなしでは良く出てくるようで、たとえばフェルデューゼンという人が提唱した「TIDEモデル」というものがあったりします(注1)。
やはり、それも、

Talent Identification and Development in Education(教育での才能の発見と伸長)

となっており、しょっぱなから出てくる理論です。
この理論が生まれた背景は、レンズーリという人とも関係するのですが、一部の特定の子どもを才能児とラベル付けするのをよしとしない「才能伸長」の理念に立ち(実際にアメリカでもそう認識され攻撃を受けた時代があり、縮小したこともある)、すべての子どもの特殊な才能や適性、ニーズに合わせて多様な拡充・早修の機会を提供するための認定あるいはその方法論となっています。おそらく、このプロジェクトの推進者の方々は日本だとさらに誤解を受ける可能性を充分に考慮した結果、そういう呼び方を意図的に回避してるのだろうと思います。


それで中身についてですが、手取り足取りサポートを行う対象が10人という規模。
正直、少ないなとも思いますが、現代日本のレベルからすると、いたしかたないですね。他の分野でも似たようなものがありますが、いわば実験的な試みで、ここから始まるかもしれないといった感で、初々しさが伝わってきます。ただ、条件についてはどうも緩くしてあるようで、そこがウリといったところでしょうか。
表向きの条件は、

・小学3年~中学3年対象
・学校の授業をつまらないと感じ、不登校になっている

とありますが、前出の公式サイトのQ&AやPDFファイルの同一部分を見ると、とくにこだわるわけではないみたいです。こういった柔軟さを用意しているところも、やっぱり意識してるんじゃないかな、と匂わせる一面のように感じます。

とくに熱を入れるのは10人みたいですが、肝心なのは「選抜に漏れた子どものうち100人には、教材などを提供する」別コースも存在することです。公式サイトの説明では、オンラインのみ参加となっており、こういった手法はやはりアメリカで実施されているものです(注2)。
大学の単位取得に関するはなしですが、ミドルスクール生やハイスクール生を対象に、郵便などによる「通信コース」やインターネットを利用したオンラインでの「遠隔学習」などが普通に存在し、「二重在籍」(dual enrollment)プログラムの変種として扱われています。それらはその手段を通じて、大学の授業を履修し、大学入学後に認められる単位修得が可能となっているのです。
一例として、アメリカの私立大学の名門で、“西のハーバード”とも称される、スタンフォード大学では、

EPGY: Education Program for Gifted Youth (才能ある青少年のための教育プログラム)

というものがあり、数学や物理学、英語などの多くのコースが開講されていて、受講生はオンラインで講師の添削や相談を受けられるとのこと。「才能児のために学校や地域で提供されるプログラムに制約されず、全国(全世界)どこでも学習でき、すぐに返信をもらえるので、学習を個性化できる新しい手段として今後大いに発展するであろう」とされているので、英語が苦手ではない方は調べてみてはいかがでしょうか。ちゃっかり同盟国さんは世界に売り出してるわけですよ。

ここからは、アメリカの事例について、資金を捻出してくれる財団という観点からもう少し掘り下げてみます。アメリカには様々な分野で後押しする有名財団が数多くあり、あのマイクロソフトビル・ゲイツもそう!わたしが個人所有で持っているPCのOSはwindows7なので、当然お世話になっています。
こういうジャンルでは「いや、ちょっと待て!わたしはアップル派だ!」みたいな論争にヒートアップしかねず、なかには彼のビジネス手法を嫌っている方もいるとは思います。
しかし、彼が当然関与するゲイツ財団(Bill & Melinda Gates Foundation)は途上国の貧困問題改善には原発の存在が必要不可欠だ!との立場から新技術への投資などに積極的でもあります(ここらへんは「脱原発」という理念だけ大層に掲げて、ドン・キホーテよろしく猪突猛進するどこかの方々とは大違いです)。また、この分野も例外ではなく、「早期カレッジ・ハイスクール」開設の支援のためにかなりの額の資金提供を実施しています(注3)。

 「早期カレッジ・ハイスクール」というのは、公立のハイスクールで、短大を(編入学すれば4年生大学も)2年早く卒業できる早修措置の一環で、貧困から抜け出そうとする才能児も救済されやすい制度(優秀な成績・強い動機づけ等の条件は存在するが、ニューヨーク市内の「バード・ハイスクール早期カレッジ」の場合だと授業料は無料)です。それの拡充に、ゲイツ財団は2002年3月時点で(古いはなしですが)、4000万ドル(1ドル=100円とすれば、今回の日本財団の額のじつに8倍!)を拠出する旨を発表。このプランには、カーネギー・フォード・ケロッグ財団も協賛し、2003~4年内に70校(400人規模。今回のケースでの人数の単純な比較では、じつに40倍!)を開設するとしました。もうこのプランですらお腹いっぱいといった感じですが、やりやがったのです(笑)

ほとんど時期を経ずして2003年4月になると、規模拡大を言明。5300万ドルに上方修正し、5年間に93校以上を開設することになったようです。
内訳の一部は、

ニューヨーク市:20校(760万ドル)
ワシントン州:8校(300万ドル)
オハイオ州:5校(270万ドル)
カリフォルニア州:15校(900万ドル)

となっていて、その他にも計画が相次いだとのこと。これらの支援は、運営資金は出さず、開設資金だけを出すものなので、存続には別の問題がありますが、たぶん別の方々が肩入れをしているんじゃないかと思います。やっぱり、意識してやるとやらないではかなり違ってくるはずです。

日本の財界関係者(あるいは富裕層)はアベノミクスにおもねいて、翼賛機関になるくらいなら、こういうのに目を向けるべきではないでしょうか?現代日本では歴史は繰り返すのごとく、マルクス・ブームが招来しているので。また、とくに文科省は変な横槍を入れないでいただきたい。何かしでかしそうで、そこが一抹の不安だったり。順調に進んで欲しいものです。


1、松村暢隆『アメリカの才能教育―多様な学習ニーズに応える特別支援』、東信堂、68~69ページ。

2、同、90~91ページ。

3、同、83~85ページ。